2010-05-23

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正直にいえば、自分は日本必勝を信じていない。客観的事実は、自分が次第に最後の関頭に追いつめられつつあることを証明している。
また、降伏よりは死するに若かずと鉄のごとく信じて疑わないほど死に無反応ではない。
(降伏など考えても身に粟を生じる、降伏などして、生きていて、それほどの楽しみも予想できない。逆にまた、たとえ万一日本が勝って、かつ自分がまかりまちがって名声や富や美人を最高限度に享受しても、死はやっぱりいつか来る。そのとき自分の生をふり返るとき、その生は依然として虚無の生にちがいないであろう)―しかし、それと承知しているにも拘わらず、死を見ること帰するがごとき心境にはどうしてもなれない。これは本能である。
(s20.6.17)

山田風太郎「戦中派不戦日記」

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