フォークシンガーの歌は、歌詞を何番かまで歌うだけなのに、一冊の本のようだった。人物やできごとの何がフォークソングとして歌うだけの価値を決定するのかを語るのは難しい。おそらくは公平で正直で裏表のない人物であることが関係している。それと広い意味での勇敢さというものが。
アル・カポネはギャングの世界でシカゴの地下組織を支配するようになったが、カポネのことを歌にした人はいない。どう見ても興味深い人物ではなく、英雄的でもない。彼はつまらない。一瞬たりともひとりで戦ったことのない小判鮫のような男。
名前を登場させる価値がない――
「ボブ・ディラン自伝」
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