2010-06-01

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ミレーは、後に一部の批評家から誤解されたような新しいデモクラシー鼓吹者でもなければ、感傷的な社会主義者でもなく、先天的な性格として、自分の人生にもこの世界にも、よろこびのかけらも見出すことの出来ない人間であった。人生も世界も、それらはただ悲哀に満ちたものとしか感じられなかった。しかし彼は、それらに対して不平も怒りもおぼえることなく、それを平静に受けいれ、その心情をそのまま、柔和で憂鬱な、素朴で荘重な絵として描きつづけたのである。

山田風太郎「人間臨終図巻Ⅱ」(ミレー)

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