2011-03-02

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駒子の愛情は彼に向けられたものであるにもかかわらず、それを美しい徒労であるかのように思う彼自身の虚しさがあって、けれども反ってそれにつれて、駒子の生きようとしている命が裸の肌のように触れて来もするのだった。彼は駒子を哀れみながら、自らを哀れんだ。そのようなありさまを無心に刺し透す光に似た目が葉子にありそうな気がして、島村はこの女にも惹かれるのだった。

川端康成『雪国』

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