2011-03-03

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(略)作者自身の敏感な細い絃が島村の中に縦横に張りめぐらされている。その絃に触れて真実なものが悉く音を立てるが、無意味なものは悉く空白に過ぎてゆく。だから、駒子のような、悲しいまでに真剣な存在、それよりももっと危険な怖ろしいほど張りつめた生き方しか出来ぬような葉子の存在のない所では、島村は空白な無に帰してしまう。

伊藤整「『雪国』について」

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