2012-01-06

632

川端氏の作品では、繊細さが強靭さと結びつき、優雅さが人間性の深淵の意識と手をつないでいる。その明晰は内に底知れぬ悲哀を秘め隠れして、現代的でありながら、中世日本の修道僧の孤独な哲学が内に息づいている。彼の用語の選択ぶりは現代日本語として極限的な精妙さを、微妙に震え、おののく感受性を示している。(略)
青年期から現代に至るまで、川端氏が心をとらえられてきた主題は、終始一貫している。人間の本源的な孤独と、愛の閃きのうちに一瞬垣間見られる不滅の美とのコントラストという主題――恰(あたか)も稲妻の一閃が、夜の樹木の花を瞬時に照らし出すような。

『川端康成・三島由紀夫 往復書簡』
「一九六一年度ノーベル文学賞に川端康成氏を推薦する」三島由紀夫

0 件のコメント:

コメントを投稿