2010-05-24

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人間なるものは、すべて、己の凡てを―或る部分を―また唯一の特徴をも、他と特別なものにして、古今稀なるものにして、またこの一点をもって世のいかなる立派なるものにも匹敵し、凌駕すると自惚る。この感なくんば人間は生きている能わざるものなるべし。
ただし、かく思えば、自分の長所を他に述ぶるほど愚なるものなし。
人間の最大本能の一つは他に対する臨欲なるを以て、自己宣伝は実に猛烈なる快感を与うるものなり。ただ果してその効果ありや。
他はこれをききて果して感服するや。
(s20.6.30)

山田風太郎「戦中派不戦日記」

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