敵を悪魔と思い、血みどろにこれを殺すことに狂奔していた同じ人間が、一年もたたぬうちに自分を世界の罪人と思い、平和とか文化とかを盲信しはじめるであろう!
人間の思想などというものは、何という根拠薄弱な、馬鹿馬鹿しいものであろう。もっとも新聞人だって、こういうことは承知の上で、いまの運命を生きのびてゆくためにこういうことぬけぬけと書き出したのであろう。そして国民はそれに溺れる。それでよいのである。それが日本を救う一つの道なのである。しかし過去に於て完全には溺れなかった自分である。将来に於ても決して溺れつくすことはあるまい。
(s20.9.1)
山田風太郎「戦中派不戦日記」
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