されど、歴史に目的なし。目的あるか知らねども、そは一時代の一国民たる人類には到底知り得べからざるもの。一つのドラマかは知らねども、第一幕第二幕と次第に進みて終幕に至りてクライマックスの脚光浴びるがごとき芝居を見て大芸術なりと陶酔する人間には、絶対にうかがい得ざる厖大神秘なるもの、そは地球上の歴史の実相なり。この簡単なる真理を、時代によりてはついに悟り得ざる国民あるにあらざるか。たとえば明治大正の日本人、或いは現代のアメリカ人などこれにあらざるかと思う。
されどわれらは、悲壮にして滑稽なる戦いを戦いて、すなわち明確に歴史を知りたり。
(s20.10.5)
山田風太郎「戦中派不戦日記」
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