2010-06-22

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ジョニー(キャッシュ)には耳をつんざくような声はないが、一万年にも値する文化が彼からあふれ出る。ジョニーが石器時代の洞窟の住民であったとしても自然に思える。彼は燃えさかる火の縁にいるように、深い雪のなかにいるように、亡霊が棲みつく森のなかにいるように歌い、あくまでも冷静に意識的な強さを保ち、危険をはらんだ歌を全精力を傾けて歌う。「わたしは自分のこの心を注意深く見守っていこう。」そのとおり。
ジョニーの声は世界が小さく見えているぐらい大きくて、異常なほど低く―暗くて深く―さざ波のように細かなリズムを刻むバックバンドも、その声にぴったりと合っていた。歌詞は正しい人の道を説き、神の力を後ろ盾にしている。

「ボブ・ディラン自伝」

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