2010-06-01

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相変わらず渋い表情だったが、いつも気むずかしく口をへの字に結んでいるために顎のところに盛りあがっていたもの(われわれはそれをウメボシと呼んでいたが)が消え、閉じた眼尻のあたりにやさしさが浮かんで、安らいだ顔だった。
もともと長生きするタイプの人物ではなかった。人生のあらゆる面を、思い残すことなく生きることが出来た。そういうもろもろのことが、あの死に顔の安らぎにつながる、と私は感無量に眺めた。
ー吉行淳之介

山田風太郎「人間臨終図巻Ⅱ」(柴田錬三郎)

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