2010-06-01

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「鳥は空をはばたき梢をねぐらとし、魚は水の中でその生を営む。私たち夫婦は結婚のはじめから終りまでを病の中ですごした」(妻の貞子)
その生活の中で福永は、音楽を愉しみ、草花を愉しみ、文房具を愉しみ、小説の世界の中でも推理小説を書いて愉しむという、貞子の言葉によれば、「あらゆることを楽しみに変えてゆける技術を身につけていた武彦の生活の一つ一つは、今想い起すと不思議なほど暗い影がない」生活であった。

山田風太郎「人間臨終図巻Ⅱ」(福永武彦)

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