すべてを拒否すること、現実の日本や日本人をすらすべて拒絶し否定することのほかに、このもっとも生きにくい生き方のほかに、とどのつまりは誰かを殺して自刃することのほかに、真に「日本」と共に生きる道はないのではなかろうか?
思えば民族のもっとも純粋な要素には必ず血の匂いがし、野蛮の影が射している筈だった。世界中の動物愛護家の非難をものともせず、国技の闘牛を保存したスペインとちがって、日本は明治の文明開化で、あらゆる「蛮風」を払拭しようと望んだのである。
その結果、民族のもっとも生々しい純粋な魂は地下に隠れ、折々の噴火にその兇暴な力を揮って、ますます人の忌み怖れるところとなった。
いかに恐ろしい面貌であわられようと、それはもともと純白な魂であった。
三島由紀夫「豊饒の海・暁の寺」
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