2010-08-17

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酒が少しずつ酢に、牛乳が少しずつヨーグルトに変ってゆくように、或る放置されすぎたものが飽和に達して、自然の諸力によって変質してゆく。
人々は永いこと自由と肉慾の過剰を怖れて暮していた。はじめて酒を抜いた翌朝のさわやかさ。自分にはもう水だけしか要らないと感じることの誇らしさ。・・・・・・そういう新らしい快楽が人々を犯しはじめていた。
純粋なものはしばしば邪悪なものを誘発するのだ。

三島由紀夫「豊饒の海・暁の寺」

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