2010-08-19

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富士は冷静的確でありながら、ほかならぬその正確な白さと冷たさとで、あらゆる幻想をゆるしていた。冷たさの果てにも眩暈があるのだ、理智の果てにも眩暈があるように。富士は端正な形であるがあまりに、あいまいな情念でもあるような、ひとつのふしぎな極であり、又、境界であった。

三島由紀夫「豊饒の海・暁の寺」

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