2010-08-24

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・・・・・・それにしても、或る種の人間は、生の絶頂で時を止めるという天賦に恵まれている。俺はこの目でそういう人間を見てきたのだから、信ずるほかはない。
何という能力、何という詩、何という至福だろう。
登りつめた山巓(さんてん)の白雪の輝きが目に触れたとたんに、そこで時を止めてしまうことができるとは!そのとき、山の微妙な心をそそり立てるような傾斜や、高山植物の分布が、すでに彼に予感を与えており、時間の分水嶺ははっきりと予覚されていた。

三島由紀夫「豊饒の海・天人五衰」

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