2010-08-26

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西日を透かした森には秘蝉の声がこもり、鳥の叫びにまじって、国電の高架線のひびきが伝わった。沼へふかぶかとさしのべた一本の枝から、蜘蛛の糸で吊された一葉の黄葉があって、これが旋動するたびに、木洩れ日を受けて神聖に光った。宙に一つのごくごく小さな廻転扉が泛んでいるようだった。

三島由紀夫「豊饒の海・天人五衰」

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