2010-08-26

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僕らは閉園時刻を口実に急いでいたが、急いでいたのはそのためばかりではなかった。秋の日没の庭のかもし出す情緒が、心にしみ入るのをおそれていたためでもあり、又一方では、むやみと歩を早めることによって、廻転速度を高めたレコードの歌声のように、内面の声が金切声を立てるようになるのを、望んでいたためでもあった。

三島由紀夫「豊饒の海・天人五衰」

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