2010-10-26

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郵便局!私はその郷愁を見るのが好きだ。生活のさまざまな悲哀を抱きながら、そこの薄暗い壁の隅で、故郷への手紙を書いてる若い女よ!鉛筆の心も折れ、文字も涙によごれて乱れてゐる。何をこの人生から、若い女たちが苦しむだらう。我々もまた君等と同じく、絶望のすり切れた靴をはいて、生活(ライフ)の港々を漂白してゐる。永遠に、永遠に、我々の家なき魂は凍えてゐるのだ。
郵便局といふものは、港や停車場と同じやうに、人生の遠い旅情を思はすところの、魂の永遠ののすたるぢやだ。

「萩原朔太郎詩集」河上徹太郎編

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