「こんな保養地の幾つかを、いやいやながら引き廻されているうちに、私はだんだん美衣美食の金持連の生活が、如何に不自由でけちけちしたものであるか、彼等の想像力が如何に貧弱で遅鈍であるか、彼等の趣味や慾望が如何に臆病なものであるかをしみじみと悟りました。実際、ホテルに泊る金がないので、行き当たりばったりに足を停めて、山の頂上から海の景色を心ゆくまで眺め、草に寝転び己れの足で歩いて、森や村々を近々と眺め、その土地土地の歌を聞いたり、その土地の女と恋に落ちたりする老若の旅人の方が、何倍幸福だか知れません。・・・・・・」
(「アリアドナ」)
チェーホフ「カシタンカ・ねむい 他七篇」
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