2010-11-12

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生命(いのち)というのは真鍮のベッド柱に照り輝く日光のこと、ポートのこと、じぶんの賭けた不人気な馬が決勝点にとびこんで、旗が威勢よくあがったときの胸のときめきのこと。遊歩道にそって走るタクシーのなかで、あたしの唇の上におしつけられ、エンジンの轟きといっしょに揺れていたフレッドの唇ーーあれが生命。それなのに花のことをぼそぼそ言ったりするなんて、いったい死ぬってことがどんな意味をもつと言うのかしら。

グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』

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