2012-04-17

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おたまは実際、非常にりこうな女であった。これまで重大な誤りをおかしたことがなかった。彼女は、愚劣な人間をうまく利用して世わたりして行くのに都合よくできている人間の一人であった。忍耐、ずるさ、悪知恵、目はしのきき方、けちくささなど、先祖代々からの農民としていろんな経験が、一つの完全な機械(からくり)のように彼女の無学な頭脳のうちに凝縮されていた。この機会は、それが生み出された環境のなかで、しかも、うまく処理できる百姓と言う、特殊な人間材料を得て、はじめて完全に回転したのである。
(「赤い婚礼)」

『小泉八雲集』上田和夫訳

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