2012-06-15

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泡*が虹色に輝いているさまは美しい。が、こいつらは海のいかさま師だ。老人は、大きな海亀がそれらをぱくぱく食ってしまうのを見るのがなにより楽しみだった。海亀たちはそれに気がつくと、真正面から近づいてきて、ぱちっと眼を閉じ、体をすっかり甲のなかに隠して、かたはしから糸ごと食ってしまう。老人は海亀が浮袋*を食うのを見るのが好きだ。またかれは嵐のあとなど、海岸に打ちあげられた浮袋を、角のように硬くなった踵で踏みつけては、それがプスッ、プスッと音をたてるのをききながら歩くのが好きだった。 *…カツオノエボシのこと

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