2010-05-27

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痛切な苦痛に人間が悶えるとき、彼はまさしく幻影に希望の糸を投げかける。僕は、宗教とはこの幻影であると信じている。
そういうと、理由もないのにしかめ顔をする人間が、何とこの世に多いことだろう。そのくせ、宗教とはどんなものか、彼らは一向に知っていないのだ。そうして宗教が幻影であることは、その尊厳を一毫も傷つけるものではない。この世界の偉大とか尊厳とか壮烈とか雄渾とかいう形容詞に値するものは悉く幻影である。
(s20.10.8)

山田風太郎「戦中派不戦日記」

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