2010-08-18

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梨枝は何年日本に残して来ても、帰った本多を見送った時と同じ静かな笑顔で迎えるにちがいない女である。たとえその間、いくばくの白髪を鬢(びん)に加えていても、見送った顔と出迎えた顔が、まるで左右の袖の花菱の紋を合わせたように、一分の狂いもなく符合する女である。

三島由紀夫「豊饒の海・暁の寺」

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