2010-08-31

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道のゆくてを遮る木蔭の一つ一つが、あらたかで神秘に思われた。雨になれば川底のようになるであろうその道の雑な起伏が、日の当るところはまるで鉱山の露頭のようにかがやいて、木蔭におおわれた部分は見るから涼しげにさざめいている。木蔭には原因がある。しかしその原因は果して樹そのものだろうかと本多は疑った。

三島由紀夫「豊饒の海・天人五衰」

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