2010-10-26

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古駅の、柳のある川の岸で、かれは何を釣らうとするのか。やがて生活の薄暮がくるまで、そんなにも長い間、針のない釣竿で・・・・・・。「否」とその支那人が答へた。「魚の美しく走るを眺めよ、水の静かに行くを眺めよ。いかに君はこの静謐(せいひつ)を好まないか。この風景の聡明を情緒を。むしろ私は、終日釣り得ないことを希望してゐる。されば日当り好い寂寥の岸辺に坐して、私のどんな環境をも乱すなかれ。」
(寂寥の川辺)

「萩原朔太郎詩集」河上徹太郎編

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