2010-11-02

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さらにこの孤独者は、なかんずく一切のエクスタシスおよび狂気から切断されているゆえに、必然的に永遠の覚醒状態にありつづける運命をもつ。更にまた一切の目標から切断されているゆえに、闘争もなく行動もなく、従って多少とも本質的な変化というものもあり得ない。

そこでどういうことになるか。人間的機能のうち、一たい何がチェーホフに残されているのか。おそらくは一対の眼だけではないのか。絶対の透明の中に置かれた絶対に覚醒せる、いわば照尺ゼロの凝視だけではないのか。それにもう一つ、「昔ながらの仕来たりに従って、機械的に書く」ことだけではないのか。

神西清「チェーホフ序説」

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