2011-09-24

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「はっ、御意の趣き、しかと会所に申しつけまする。しかし、あの老人はこういうことがいままでに何度もござりまして、しかも善男善女の法悦のかぎりをかいて何がわるい。どうじゃ、この絵をみて合掌礼拝する気にはなれぬかなど大言壮語をつかまつる絵師でござりますれば、かようなこともちとみせしめになるかとも存じまする」
「なんという絵師じゃ、それは?」
「はっ、葛飾北斎と申しーー」
「なにっ、北斎!」
と、越中守はさけんで、眼をきらっとひからせた。
(「怪異投込寺」)

山田風太郎『女人国(ありんすこく)伝奇』

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